2012-11-10

20通目:新刊が多いですね

もう11月かー。お店なんかは、すでにクリスマスの装飾ですね。
まだ日中はそうでもないけど夜には冷え込むようになってきました。
乾燥のせいか、寒暖の差に体が追いついてないのか二ヶ月続けて風邪をひいてしまって診察にも薬にもお金が飛んで行くという泣きっ面に蜂な秋でしたね。

ですが先月は好きな作者の新刊が続いたので、そんな辛さもちょっとは緩和されたかな。
のど飴常備で読んだ感想。



前回の日記にも書いた九井諒子さんの新しい作品集「竜のかわいい七つの子」
ファンタジーと現実の重ね方がやはり絶妙です。
この作品集の中で一番好きなのは「金なし白祿」ですねえ。
絵が上手すぎて描いた生き物が飛び出してくるっていうのもすげえと思うんですが、飛び出してくるときのわくわく感。そして最後がいい。始めから終わりまで物語の楽しさが詰まっています。何回でも読み返すんだろうな、この漫画。
MATOGROSSOに連載されていた短編もじきに書籍になるとのことで、これもまた楽しみですね。他の星に旅行に行ったら外来宗教に厳しくて入国審査が大変、っていう話があったんだけどその星の住人が猫っぽい見た目でかわいかったのです。



ほんで次、サメマチオさんの新刊「春はあけぼの 月もなう 空もなお」
枕草子の漫画版…いや、合ってないな。新解釈?とか?
現代の日本の日常生活にも枕草子がしたためられた時代にも同じようにある季節のにおい、色、子供や猫のようす、人の様。
毎日やってる事はあんまり変わってないのかもしれないですね。
ネットもコンビニも無いけど平安時代は。
サメマチオさんは半年くらい前に「きみの家族」という新刊も出していますが、こちらはごくごくふつうのある家族の中で育ったお姉ちゃんがこれまたふつうの家庭で育った人のところへ嫁いで行くっていう話。九州に親戚がいるので冒頭の「これも食べんね食べんね」攻撃に笑いました。香川のお雑煮は本当に餡餅なのか。



で、次ー。豊田徹也さんの「ゴーグル」!うおー!
探偵山崎さん再び、の「ミスター・ボー・ジャングル」。アフタヌーンの四季大賞受賞作の「ゴーグル」。その前日譚「海を見に行く」。そしてついこの前にアフタヌーンに掲載されたばっかりだよね、と驚いた「とんかつ」。
「スライダー」の本気なのか笑ったらいいのかっていうとぼけた所も面白いし、「古書月の屋買取行」もアンダーカレントの登場人物が古本屋だったら?という設定で2ページにして終わっちゃうところも閑話休題ぽくていいですね。
それにつけても「とんかつ」と「ゴーグル」がすごい。
静かに物語は進むのに、読後には窓を開け放ったような清々しさの残る傑作だと思います。
ここ最近読んだものを挙げただけなんですが、読み返してみるとどれも「家族」がテーマになっててちょっと面白かった。









2012-05-23

19通目:山の上には

5月の第2日曜日は母の日でしたね。
ふだんあまり出来ていないのですが、さすがにこの日は田舎に帰って家の手伝いなどしてきました。
孝行したいときになんとかって言いますし、やっぱり実家は落ち着きますね。
途切れないカエルの声とか、水を張った棚田とか。
夏の盛りに青々とした稲がいたるところで風になびいている景色が、私の原風景です。
暑くなったら縁側でスイカ食べよう。



さて今日は九井諒子さんの「竜の学校は山の上」の感想を。

開いて読み始めた瞬間から「この絵好きだなー」と思いました。特に線。シンプルに描かれた部分と描き込まれた部分のバランスも絶妙です。カラフルな表紙だけ見たときはあっさりした線で良いな、くらいに思っていたのですが白黒になると非常に絵の魅力が引き立っていました。

あとがき含む全10話収録の短編集ですが、前半はRPG的な世界、後半は日常的な世界が舞台になっています。RPG的な世界っていうのはアレです「ドラクエ」のような。勇者が冒険しながら仲間を得て魔王を倒す、という王道RPG。このマンガで描かれているのは勇者や仲間たちが魔王を倒した「その後」のお話など、ゲームの外側に広がる物語。
真ん中当たりのお話は「にほんむかしばなし」みたいな感じで、後半数話はケンタウロスや翼人や竜が日常的な世界にあたりまえにいるけど、就職や進学に悩んだり絶滅しかけて保護されていたりといった内容です。
ファンタジーなのに登場人物や、その世界が抱えている問題が現実的というか身近なところが面白いですね。
物語や登場人物にそこはかとなく憂いがあるところも良い!

この本を購入したのはけっこう前で、その時はHPから長編を読むことができました。面白すぎて、徹夜で読み通したほどなんですが、残念ながら今は見れなくなっていますね…。続きが読みたいし、いずれなんらかの形で公開されるといいなあ。

現在はAmazonのWeb文芸誌「マトグロッソ」で短編が読めますが、こちらも毎回面白いです。更新日が楽しみ。










2012-04-09

18通目:春が来たようです

前の更新から半年くらい経ってる!自分でびっくり。
この半年間の間に、個人的にいろいろと環境が変わったのが原因(というか言い訳)なんだけど、もともと飽きっぽく気分にムラがあるので更新しなくなるなんて予測出来た事さ、ああそうさと開き直っているところです。



いざ書こうと思うとどれから手を付ければいいのかってぐらい間が空いちゃったので、とりあえず一番最近に購入した「ヒトヒトリフタリ」の感想でも


「スカイハイ」「地雷震」「士道」などの高橋ツトムさんの新しい連載。
上に挙げた以外にも「blue heaven」「鉄腕ガールズ」「爆音列島」等々、作品の多いマンガ家さんですね。すげえ!働き者!しかもヒット作ばっかり!どうなってんの。
最初に高橋ツトムさんのマンガを読んだのはたしか「COMIC CUE」でのおおひなた ごうさんとの共作だったかな。(傑作だと思います)
そのとき「かっこいい絵だな」と思って「地雷震」読んで気に入ったんだけど、なにしろ多作なのでなかなか全部は読めておらずいつかは大人買いしたいのだけど、いざ本屋に行くと他のものを買ってしまったりしつつ今にいたっています。


他の作品をスルーしておきながら「ヒトヒトリフタリ」をさっさと購入した理由は表紙が可愛かったから。
ハードボイルドな作風の人なのに珍しいなあと興味が湧き、ちょっとこれはすぐに読みたいとレジに直行しました。
内容は単行本のオビですでにネタバレしていて、女の子の霊が修行のために現世に降りて守護霊としてのつとめを果たす事になったのだが相手は日本の総理大臣だった、というものです。
まだ1巻なので物語のさわりしかわからないんだけど幽界の建物がポタラ宮にそっくりだったり、人間の寿命やステータスを表す「ライフグラフ」がスマホみたいだったりと細かいところが面白いです。
そして主人公(霊)がかわいい。金髪で名前が「リヨン」だから白人の少女(霊)っていう設定なのかな。でもなぜか関西弁。
おっさん(総理)にこんなかわいい守護霊が憑いたらがんばっちゃうよね。
始まったばかりなのでおっさんがリヨンから影響を受けてどう変わって行くのかわからないけど、政治ドラマより自分に与えられた生をどう使うかを、リヨンとおっさんそれぞれが問うていくような感じになるのかな、と予想しています。
実際はどうなるのかわからないので楽しみ。早く2巻出ないかなー。


余談:弐瓶勉さんは高橋ツトムさんのアシスタントをやっていたことがあり、高橋ツトムさんはかわぐちかいじさんのアシスタントをやっていた事を知って、へぇー。





2011-09-15

17通目:睡沌氣候

だいぶ前になりますが、ニュースサイトで見かけた記事「宮沢賢治、恋人がいた」http://goo.gl/5fu8t を読んでちょっとおどろきました。
そうか彼女がいたのか。いやそれより「いなかった」と思われてたのか。
なんかそれ気の毒。

小学生の頃、親が全集を買い与えてくれたおかげで作品はだいたい読んでいるものの、本人の生涯やその人柄については特に知らないまま大人になったわけですが、記事中にも「本人が仲間と開いたレコードコンサートで知り合った」とあるし、ウィキペディアを見てみたら、意外に恋愛エピソードがあったりして、なんだよもうリア充だったのかよと思ってしまいました。

しかし、生涯独身であったというのは事実で、結婚しようとしたら相手側の家に反対された理由が「周りから変人扱いされていた賢治の性格を気にしたらしく」とか、やはり日本を代表するサイケデリック詩人・作家というポジションは時代を先取りしすぎだったのかっていう件りがあったり。

相手の女性の生涯もドラマチックな展開すぎて昔の少女マンガっぽいなあと思ったけど、親に結婚を反対されるとか結核をわずらうとか、そういう時代だったのだなあと大正から昭和へとうつり変わる頃に思いをはせたくなりますね。

幼い頃には動物がコミカルな寸劇を演じるような作品が好きで繰り返し読んでいたけれど、大人になるにつれ、作中に内包されているサイケデリックさや、鉱物や星々に対する愛着、電信柱すら擬人化したり銀河に汽車を走らせたりするような想像力、みな一生懸命生きているだけなのになぜこんなにも苦しく切ないのかという「生」そのもへの葛藤を読み取るようになり、自分はずいぶんこの作家から影響うけているなあとつくづく思った事があります。
そうでなければなぜ、いつもこんなにもはかない気持ちになるのか。
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」という一文が年を重ねるにつけふと思い出されるのかと。


自然を身近に感じる人は孤独な気持ちになりにくい、とどっかで聞きました。
この稀代の作家はおそろしく強い感受性で森羅万象を興味深く眺め、それらがとてもはかないことを知りつつもすべてが愛しかったのだろうなあと思うと、独身であっても決して「孤独」とは無縁だったのではないかという気がします。






さて本題に入ります。


コマツシンヤさんの作品集「睡沌氣候」は賢治っぽさ満載です。
化石、虹、キノコ、逃げ水、チェスの駒、銀河といったあたりが。
絵の雰囲気はイラストのようでかわいらしいのですが、すこし古びた幻想的な風景として描かれている町並みや、人外な脇役がとても良いですね。


自転車でひたすら遠くに行くとか、眠ってる間に散歩とか、スイッチがあったら押してみるといったセリフの無い作品はとり・みきさんの「遠くへいきたい」みたいで、他の作品より現代的な感じですね。この手の作品をもっと読んでみたいな。


ご本人のサイト「異次元社.com」で日記、イラストなど見れます。
サイダーの泡が銀河の星になっていくような幻想をお楽しみあれ。




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